「全体のために行動する」

 あなたの行動が全体のために役立つことこそ自分を生かす道 
 
 今年の6月20日、長野県の善光寺ダライ・ラマ法王現下を囲む会が開かれました。日本全国から影響力を持つ関係者45名が特別に招聴され、厳重な警戒の下、法王のメッセージに耳を傾け、世界平和のための意見が交わされました。
 
 聞くところによると、法王が善光寺にお見えになると分かった時から主催者のもとにはいろいろな脅迫のメールや電話が相次いだといいます。
 宗教弾圧によってチベットの地を離れ、命の危険を承知で世界各国を回りながら人類の和合を説き続けるダライ・ラマ法王ですが、その活動の陰には、強い責任感と使命感、言い尽くせないご苦労があるのだと改めて知らされました。
 
 しかし、それだけの重圧にもかかわらず、法王の表情は常に穏やかで、いささかの重苦しさもなかったそうです。
時に冗談を交えながら、一人ひとりと同じ目線で話をされるダライ・ラマ法王の親しみやすいお人柄にとても好感を抱いた方が多かったようです。
 
 この会は、現代の文明の変化の時代にあって、平和のために何ができるかを探るのが一つのキーワードだったようです。法王は参加した一人ひとりに色紙を手渡し、ご自身の願いを託されました。
 その一つに、次のような日本語訳のカードが添えられていたそうです。
 
「自分の心を調制するなら、いつも楽しく安らかなり」
 
調制とは、心を制しながら自らの心を整えていくという思いが込められた言葉なのでしょう。
法王は世界を平和にするのは、結局は、それぞれの人が心を穏やかにして、自らの心に平和をもたらすのが一番の早道であるとのお考えなのだと思われます。
 
この会で法王は二つのことを強調して話されたそうです。
 
一つは、祈りも修行も大事だけれども、これからは心の科学を十分に学んで生活に取り入れ、科学の力によって欲望や怒りをコントロールしていく時代だということです。
 
そして、もう一つ、「自分の行動が全体の益になっているか、常にそのことを心懸けなさい」という素晴らしいメッセージを発せられたのでした。
 
 
囲む会の席上、ある参加者が「法王は観音様の生まれ変わりと伺ったことがありますが、ご自身でもそう感じられますか」と質問しました。
 
 法王はこのようにお答えになりました。
「いいえ。私は普通町人と何ら変わりません。怒ることもあるしプライドもある。もし、私がちょっとでも違う個性があるとしたら、四、五時間の日々の瞑想を通して心の中に慈悲の種がまかれていることでしょう。私は自分のやっていることが全体の益になっているかを常に考えています。多くを与えた人たちは多くを与えられます。
人に尽くすのが幸せの原点ではないでしょうか」
この時の法王の答えに、「全体のために自分は役に立っているのか」に対する考えが端的に示されていたようです。